感情に流されず多角的に考える:客観的な視点を養う方法
感情や個人的な経験は、私たちの考え方や判断に大きな影響を与えます。しかし、複雑な問題に対処したり、重要な意思決定を行ったりする際には、感情に流されず、できる限り客観的な視点を持つことが不可欠です。客観的な視点を持つための一つの有効な方法が、「多角的に考える」というアプローチです。
なぜ「多角的に考える」ことが重要なのか
私たちは皆、それぞれが持つ知識や経験、立場によって、物事を特定の見方で捉えがちです。これは自然なことですが、一つの視点だけにとらわれていると、問題の本質を見誤ったり、重要な情報を見落としたりするリスクが高まります。例えば、ある出来事に対して、自分の感情や「こうあるべきだ」という思い込みだけで判断してしまうと、事実に基づかない結論に至る可能性があります。
多角的に考えるとは、文字通り、一つの事象や問題に対して、複数の異なる角度から光を当ててみることです。これにより、普段は見えていなかった側面や、自分自身の偏見に気づくことができます。感情や主観から距離を置き、より多くの情報や可能性を考慮に入れることで、偏りのない、客観的な理解や判断に繋がります。
多角的な視点を持つことのメリット
多角的な視点を意識的に持つことで、以下のようなメリットが得られます。
- より正確な状況理解: 一つの情報源や見方だけでは得られない、全体の構造や背景を把握しやすくなります。
- 隠れた問題や機会の発見: 見方を変えることで、表面的な事柄だけでなく、根本的な原因や、まだ気づいていない可能性に気づけます。
- 複数の解決策の検討: 一つの解決策に固執せず、様々なアプローチを比較検討する土台が生まれます。
- 他者への理解促進: 異なる立場や背景を持つ人々の考え方、感じ方を想像しやすくなり、建設的なコミュニケーションに役立ちます。
- 公平で客観的な判断: 感情や個人的な利害から離れ、事実と論理に基づいて判断を下す力を養えます。
多角的な視点を養う具体的な方法
では、どのようにすれば多角的な視点を意識的に持つことができるのでしょうか。いくつかの具体的な方法を提示します。
1. 異なる情報源に意図的に触れる
インターネットやメディアを通じて得られる情報は膨大ですが、それぞれに発信者の意図や偏りが含まれている可能性があります。一つの情報源だけでなく、意識的に複数の、立場や視点が異なる情報源(例: 新聞各紙、国内外のメディア、専門機関のレポート、一次資料)を参照することで、情報の偏りを相対化し、多角的な視点から事実を捉えようと努めることができます。情報の信頼性を論理的に判断するスキルも合わせて重要になります。
2. 意図的に「問い」を立てる
物事を考える際に、「これは本当にそうなのか?」「他に考えられる見方はないか?」「もし別の立場だったらどう見えるか?」といった問いを自分自身に投げかける習慣をつけます。特に、自分が強い感情を抱いたり、すぐに結論に飛びつきそうになったりした時には、一度立ち止まり、意識的に反論や異なる可能性を検討する時間を設けることが有効です。
3. 立場を変えて考えてみる
問題や状況に関わる様々な人々の立場に立って考えてみます。例えば、顧客の立場、提供者の立場、管理者の立場、影響を受ける第三者の立場などです。彼らが何を考え、何を感じ、どのような情報を持っているかを想像することで、自分が気づかなかった側面や制約が見えてきます。議論の場であれば、相手の意見の背景にある理由や目的を推測することも、多角的な理解に繋がります。
4. 時間軸を変えて考えてみる
現在の状況だけでなく、それが過去にどのようにして形成されたのか、そして将来的にどのような影響をもたらす可能性があるのか、時間軸を追って考えてみます。短期的な視点と長期的な視点の両方を持つことで、一時的な感情や流行に流されず、本質的な課題や持続可能な解決策が見えてくることがあります。
5. 肯定的な側面と否定的な側面の両方を検討する
どのような事象や決定にも、メリット(利点)とデメリット(欠点)、あるいは機会(チャンス)とリスク(危険性)が存在します。自分が「良い」と感じていることに対しても、意識的に否定的な側面や潜在的なリスクを探し、その逆も行います。これにより、一方的な評価に陥ることを防ぎ、よりバランスの取れた客観的な判断が可能になります。
6. 抽象度を変えてみる
目の前の具体的な問題に焦点を当てるだけでなく、それが属するより大きな枠組みや、背後にある普遍的な原則にも目を向けます。また、逆に抽象的な議論を具体的な事例に落とし込んで考えることも有効です。全体像(森)と細部(木)の両方を行き来することで、問題の本質や構造をより深く理解できます。
実践例
これらの方法を、身近な例で考えてみましょう。
- 学業(レポート作成): ある歴史上の出来事についてレポートを書く際、特定の歴史観に基づく文献だけでなく、異なる国の視点、当時の人々の生活に関する資料、経済的背景に関する研究など、複数の情報源を参照します。また、「もし自分が当時の統治者だったら?」「一般市民だったら?」と立場を変えて考えることで、出来事の多面性を理解し、より客観的な分析に基づいたレポートを作成できます。
- 日常生活(友人との意見の相違): 友人との間で意見が対立した場合、自分の主張を繰り返すだけでなく、「なぜ友人はそう考えるのだろうか?」「彼の状況や経験は自分とどう違うのだろうか?」と相手の立場や背景を想像してみます。感情的に反論するのではなく、冷静に相手の視点を理解しようと努めることで、対立を乗り越え、建設的な解決策を見出す可能性が高まります。
- 就職活動(企業選び): 企業の募集要項やWebサイトの情報だけでなく、OB/OG訪問を通じて社員の生の声を聞いたり、業界全体の動向を調べたり、競合他社の情報を比較したりします。企業の良い側面だけでなく、働く上での大変さやリスクについても情報を集め、多角的に検討することで、自分に合った企業をより客観的に判断することができます。
結論
感情に流されず客観的に判断するためには、多角的な視点を持つことが強力な武器となります。それは、一つの固定された見方にとらわれることなく、様々な角度から物事を捉えようとする意識的な努力によって養われます。異なる情報源に触れ、多様な立場や時間軸から考え、肯定・否定両面を検討し、抽象度を調整するといった具体的な方法を日々の思考に取り入れることで、より正確な状況理解に基づいた、偏りのない客観的な意思決定が可能になります。
多角的な視点を養うことは、一朝一夕にできるものではありません。しかし、日々の学業や日常生活の中で、意識的に「別の見方はないか?」と問い続けることで、徐々に視野が広がり、感情や主観に左右されない、より洗練された論理的思考力が身についていくでしょう。