感情に流されず「前提」を疑う:客観的な思考を始める第一歩
感情に流されず客観的に考えることは、複雑な現代社会において正しい判断を下すために非常に重要です。しかし、私たちは無意識のうちに「前提」にとらわれ、思考が制限されてしまうことがあります。この「前提」を意識し、適切に疑うことが、客観的な思考を始めるための第一歩となります。
「前提」とは何か?なぜそれを疑う必要があるのか?
私たちが何かを考えたり判断したりする際には、必ず何らかの「前提」が存在します。この前提とは、「これは正しいだろう」「これは当たり前だ」「きっとこうなるに違いない」といった、思考の出発点となる仮定や信念のことです。過去の経験、常識、あるいは単なる思い込みなどが、無意識のうちに私たちの前提を形作っています。
例えば、「この講義は難しいから、ついていけないだろう」という考えは、「自分はこのタイプの科目が苦手だ」「過去に同じような経験で失敗した」といった前提に基づいているかもしれません。また、「この方法はいつも上手くいっているから、今回も大丈夫だろう」という判断は、「状況は変わらない」「過去の成功パターンが常に通用する」といった前提に基づいています。
このような前提は、思考のショートカットとして役立つこともありますが、同時に思考を硬直させ、新しい可能性や客観的な事実を見落とす原因にもなります。
- 前提が間違っている可能性: 私たちの知識や経験は限られています。前提としていることが、実は現在の状況には当てはまらない、あるいは最初から誤っている可能性があります。
- 前提のせいで視野が狭まる可能性: 特定の前提に固執すると、「もし前提が違ったら?」という別の可能性を検討しなくなります。これにより、問題の根本原因や最適な解決策を見落とすことがあります。
- 感情や思い込みが前提に影響する可能性: 不安や願望といった感情、あるいは過去の成功・失敗といった経験が、無意識のうちに都合の良い前提を作り上げてしまうことがあります。これは客観的な判断を妨げます。
客観的な思考とは、こうした個人的な感情や主観的な思い込みから離れ、事実や論理に基づいて考えることです。「前提を疑う」という行為は、自分の思考の土台となっている仮定を意識的に問い直し、それが本当に現在の状況に照らして妥当なのかを検証するプロセスです。これにより、より強固で信頼できる論理を構築できるようになります。
前提を疑う具体的なステップと実践方法
では、具体的にどのようにして自分の前提を疑い、客観的な思考へと繋げていけば良いのでしょうか。以下のステップが役立ちます。
ステップ1:自分の思考や判断の「前提」を特定する
まず、自分が下した判断や抱いている意見について、「なぜ私はそう考えたのだろう?」と自問してみましょう。その考えや判断の根拠となっている、無意識の仮定や信じ込みを探り当てます。
例えば、「就職活動でこの業界は避けるべきだ」と考えているとします。その前提として、「この業界は将来性がない」「自分には合わないだろう」といった仮定があるかもしれません。さらに掘り下げると、「友人から否定的な話を聞いた」「メディアでネガティブな報道を見た」「自分のスキルが活かせないと思い込んでいる」といった、さらに根深い前提が見つかることがあります。
ステップ2:特定した前提を客観的に問い直す
前提を特定できたら、次にその前提が本当に妥当なのかを批判的に検証します。
- その前提は、客観的な事実に基づいているか? 感情や伝聞、過去の限られた経験だけに基づいている可能性はありませんか? 信頼できるデータや情報源で確認できますか?
- その前提は、現在の状況に照らして妥当か? 前提とした状況から、何か変化はありませんか? 過去の経験がそのまま現在や未来に当てはまると断定できますか?
- その前提以外に、考えられる可能性はないか? 全く逆の前提や、別の角度からの見方はできませんか?
先ほどの就職活動の例であれば、「業界の将来性がない」という前提について、業界全体の市場データや専門家の分析、企業のIR情報などを客観的に調べてみます。「自分には合わない」という前提についても、その業界で必要とされるスキルや働き方について調べ、自分の強みや価値観と照らし合わせ、本当に合わないのか、あるいは思い込みではないのかを検討します。
ステップ3:前提が崩れた場合のシナリオを検討する
もしあなたの前提が間違っていた場合、どのような影響があるかを考えてみます。これは、前提に固執することのリスクを理解し、柔軟な思考を促す助けとなります。
「この業界は避けるべきだ」という前提がもし間違っていて、実は隠れた成長分野であったり、あなたのスキルが予想外に活かせたりする可能性があったとしたら、その機会を逃してしまうことになります。このように、前提が崩れた場合のプラス・マイナスの両方の側面を検討することで、より慎重かつ客観的に前提の妥当性を評価できるようになります。
前提を疑うことを習慣にする
前提を疑うことは、すぐにできるようになるわけではありません。日々の思考の中で意識的に実践することが大切です。
- 常に「なぜ?」と問う習慣をつける: 自分の考えだけでなく、他人の意見や情報に触れた際にも、「なぜこの人はそう考えるのだろう?」「その根拠は何だろう?」「どんな前提に基づいているのだろう?」と問いかけるようにします。
- 異なる視点に触れる: 自分とは異なる意見や価値観に積極的に触れることで、自分の無意識の前提に気づきやすくなります。多様な情報源から情報を得ることも有効です。
- 「もし~だったら?」と考える: 現在の状況や考え方とは異なる仮定を置いて、物事を考えてみる練習をします。「もしこの前提が逆だったら?」「もしこの状況が違ったら?」といった思考実験は、前提にとらわれない柔軟な思考を養います。
まとめ
感情や思い込みに流されず客観的な思考を行うためには、自分の思考の土台となっている「前提」を意識し、適切に疑うことが不可欠です。前提を特定し、その妥当性を客観的に検証し、異なる可能性を検討するプロセスは、感情や主観から離れ、事実に基づいた判断を下すための強力な助けとなります。
今日から、あなたの思考や判断の「なぜ?」を問い直し、隠れた前提を探ってみましょう。この習慣を身につけることで、論理的思考力と客観的な判断力が着実に向上していくでしょう。